2024年6月号『蓮(はちす)』
蓮の咲く季節が近づいてきました。
蓮の古名は蜂巣。果実を入れた花托が蜂の巣に似ているのでこう呼ばれました。
その根は長く泥中の養分を摂り七月から八月にかけて見ごろを迎えます。
極楽浄土にある花としても有名で仏教の伝来とともに中国からきたとも伝えられます。
「阿弥陀経」には極楽の様子として
池中蓮華 大如車輪 青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光 微妙香潔
(和訳)
池中の蓮華は大きさ車輪の如し 青い蓮には青い光が 黄の蓮には黄の光が 赤の蓮には赤い光が 白の蓮には白の光が それぞれに降り注いでいて清く香しい
と描かれています。
この世に喩えるならライトアップされた、大きな蓮池のあるフラワーパークのようなところでしょうか。
そんな輝く蓮の花の陰には根の存在があります。そこは美しい花とは真逆の泥沼の世界。開花までの間、ひたすら泥中の養分を探して生き延びてきたのでした。そしてこの泥沼の期間こそが輝く花となるまでの試練の時と仏教ではとらえるのです。
渥美清さん演じるフーテンの寅さん。
「男はつらいよ」の映画の主題歌は「私生まれも育ちも葛飾柴又です」の口上で始まります。二番の歌詞をご存知でしょうか?
♪ドブに落ちても根のある奴は いつかは蓮の花となる 意地は張っても心の中じゃ 泣いているのさ兄さんは・・・
さすがに寅さん。帝釈天で産湯につかっただけあって仏さまの教えには明るかったのでしょうか。(?)
苦しい時の自分への応援歌としてこの歌詞を挙げたテレビ番組の司会者がいます。不遇の時でも仏さまの救いを応援として受けとめた方なのでしょう。
失恋ばかりで一向に身を固められない根無し草のような寅さんですが、実はそこにひたすら実直で疑う心のないきれいな根があった。だからこそ人は寅さんに愛着を持っているのかもしれません。
法然上人はお念仏申す私たちに疑う心があってはならないと諭されました。ひたすら愚直にお称えしてゆくその先に必ず蓮の台が私たちを迎えてくれる。
その尊い教えを昭和天皇はお歌にお詠みくださいました。
泥沼をくぐりて清き蓮の花 夏たけて堀の蓮の花見つつ 佛の教え思う朝かな
ひと足先に輝ける世界に渡られた方々がもうすぐお還りになられます。
お盆。
束の間のひとときですがご一緒にお過ごしください。
お寺に、お墓にどうぞお参りください。