2023年3月号『何のために生まれて、何をして生きるのか』
重い表題を掲げましたが、実はこの歌詞はこどもから大人まで誰もが知っているアンパンマンの主題歌の一節です。
やなせたかしさんの作詞で軽快な曲です。しかしこの問いの答えとして続く歌詞は
「答えられないなんて、そんなのは嫌だ」
と断定します。
誰もが知っている歌でありながらその歌詞をあらためて読むとき、私たちは答えに窮します。もちろん作者も答えにくいことは百も承知で、それでも「嫌だ」と自身を鼓舞しているのです。
二番の歌詞はさらに辛辣です。
「何が君の幸せ、何をして喜ぶ」
の問いかけに続いて
「わからないまま終わる、そんなのは嫌だ」とさらに迫ります。
終わるとはこの世の最期であり、作者は私たちにこの問いに答えが出せないまま死んでしまっていいのか、と再び問います。生きている間にそれを捜せよ、と私たちに課しているようです。
法然上人のお言葉に
受け難き人身を受けて、遇いがたき本願に会えり、生まれがたき浄土に往生せんこと悦びの中の悦びなり、とあります。
私たちが人としてこの世に生まれることは、盲目の亀が大海に漂う浮き木を見つけてその穴に首が入れられる程低いと喩えられます。しかし何の幸いか私たちはすでに人としての身を受けています。
さらに仏さまが私たちの申すお念仏の声をたよりに、必ずお迎えくださる。そして極楽浄土に生まれることが決まっている以上の悦びがあるだろうか、と説かれます。
やなせたかしさんは召集されて中国で終戦を迎えました。弟さんは特攻隊で戦死されたといいます。生と死が混在した時代を生きた方。だからこそ自分の身を削ってまでも他人のために生きたいというアンパンマンを誕生させたのでしょう。仏さまの限りない慈悲の御心に通じます。
三月は卒業式の季節。また、人生の節目となる季節。別れと出会いを繰り返して歳月が流れてゆきます。
本紙『寿光』も100号を迎えました。第一号が昭和四十年に先代により創刊されて以来約六十年。お読みくださる方々のおかげと厚く感謝申し上げます。これからも親しみやすい紙面づくりに励んで参ります。
出会いと別れのはるか彼方に大切な方々がいるお彼岸が見えてきます。愛と勇気と、そしてお念仏を何よりのご縁として今を生きて参りましょう。
春彼岸にはお寺に、お墓にお参りください。