2018年1月号『いつもそこに』
あけましておめでとうございます。
みなさま方には穏やかな新年をお迎えのことと存じます。
大晦日から正月にかけて舞台は雪深い山里。童話「かさ地蔵」のお話を憶えておられますか?
大晦日の晩におじいさんは正月の餅が食べたいというおばあさんのために町に自分たちが作った傘を売りに行くのでした。
ところが傘は売れません。
夜も更けておじいさんはとぼとぼと山に帰ります。雪はしんしんと降り続いています。
峠のところに六体のお地蔵さんが並んでいました。
その頭には冷たい雪が積もっています。
「お地蔵さま、寒かろうな、このかさをかぶってくだされ」おじいさんは持ち帰った五つの傘を順番にかぶせました。しかし地蔵さまは六体。一つ足りません。おじいさんは自分の傘を最後の地蔵さまにかけました。
家に帰るとおばあさんが帰りの遅いことを心配していましたが、訳を聞いてにこにこしてこう言いました。
「まあまあおじいさん、それはいいことをしましたねえ。お餅なんかいらないですよ」
二人が寝静まった未明にドシンと大きな音がしました。すき間からのぞくとおじいさんのあげたかさをかぶったお地蔵さまの後ろ姿が見えました。そして家の前には、お正月用のおもちやごちそうが山のように置いてありました。こんなお話です。
おじいさんの善行に応えたお地蔵さんのからの贈り物は何よりのものです。人知れずの振る舞いへの善果(良い結果)が思わぬ形で巡ってくることはよくあることと思われます。
また、おばあさんの労いのことばはどんなにかおじいさんの気持ちを楽にしてくれたでしょうか。どんな時にでも自分を肯定してくれる方がいると安心します。その方はこの世にいる場合もあれば、お浄土に先に往かれた方ということもあるでしょう。いずれにしても誰にもそんな方が必ずいます。
仏教には六道という考え方があります。私たちが何度も生まれ変わってきた六つの世界のことです。
1 地獄(激しい苦しみばかりの世界)
2 餓鬼(飢えと渇きの世界)
3 畜生(欲望のままの世界)
4 修羅(争いの世界)
5 人間(喜怒哀楽の世界)
6 天上(思い通りだが死を免れない世界)
の六種でいずれも苦しみの世界であるとされています。
私たちはお念仏によりこの六道の世界を超えた極楽浄土に往くことになっています。そこは六道とは無縁の世界。何の苦しみもありません。
しかしこの世での私たちはまだ六道の中にあります。極楽浄土を想うのと同じように地獄や餓鬼の世界もあることを知っておく必要があります。極楽を信じることは地獄もまた信じること。
六道のそれぞれの世界には地蔵菩薩がいらして苦しみを取り除いてくれる存在であると説かれます。六地蔵とはその総称で六体の地蔵菩薩はそれぞれお名前もお顔も違う別々のお地蔵さまたちです。
当山にも古くからのお地蔵さまが数体ありますが破損がひどく判別も難しくなりました。そこでこのたびお寺の山門と塀の改築に伴い六地蔵の建立に取り組みます。山門の西側に現在土台が設置されています。お地蔵さまにお参りしていただくことで佛さま方がいつもそこにいるという想いをさらに身近に感じてくだされれば幸いです。
六地蔵の建立にあたり皆さま方からのご浄財を募集いたしたく存じます。詳しくは同封のご案内をご覧ください。
みなさま方がお参りしやすいお寺へと努めてまいります。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
浄相院 住職 清譽芳隆